蒸留水のような音

久しぶりにイングリット・ヘブラーのモーツァルトを聴いた。といっても、全曲ではなく、第8番イ短調K310と第11番イ長調K331だけだが。

mozart_haebler

モーツァルト
ピアノ・ソナタ全集
ピアノ:イングリット・ヘブラー
録音:1986年~1991年、ドイツ、ノイマルクト、レジデンツプラッツ
DENON(国内盤 COCQ-83689/93)

転居の時に処分せず、手許に置いたセットである。久々に聴いてみると、実にすがすがしく、みずみずしいモーツァルトだ。音を撮ったのはアンドレアス・ノイブロンナーで、蒸留水のようなピュアな音でイングリット・ヘブラーのピアノを聴かせている。まるで純粋無垢のモーツァルトだ。煌めくばかりの演奏を前にして私はK310とK331の2曲だけで満足した。

それにしても、こういう蒸留水のような音で収録されたCDには心底驚く。本格的な装置で聴けば聴くほどその純粋さを私は強く感じる。これはちょっと信じられないような体験だ。時々、この世のものではない何かを聴いているような気にもなるのである。純粋すぎて怖いのである。私はその純粋無垢な音に驚嘆するのではあるが、その是非は未だにつけられない。不思議な録音である。

(2015年9月14日)