私は転居後にはよほどの飢餓状態に陥ることがなければ新たにCDを購入しないことを決意していたのだが、先日のクレンペラーによるマーラー・ボックスだけでなく、グールド・ボックスを購入してしまった。HMVのホームページでこのボックスがリリースされることを知ってからというもの、完全な渇望状態に陥ったためである。しかも、どうしても発売日に手にしたいという子供じみた欲望にまで囚われてしまい、1か月前には予約注文していたのである。オリジナルジャケットである上に、DSDリマスタリング盤であることを理由に今回もまた自分が物欲にあっさり負けたことを正当化した。
届いた箱を開けると、ハードカバーの大判解説書が入っていた。これは416ページもあり、手にするとずっしりと重い。非常に立派な作りで、多数の写真が掲載されている。あくまでも解説書ではあるのだが、所有することの楽しみを味わわせてくれるものだ。心憎い。
81枚もあるCDの中から真っ先に選んだのはハイドンの後期ソナタ集(CD 73-74)である。これを最初に聴くのは1か月も前から決めていた。
ハイドン
- ピアノ・ソナタ第56番 ニ長調 Hob.XVI:42
- ピアノ・ソナタ第58番 ハ長調 Hob.XVI:48
- ピアノ・ソナタ第59番 変ホ長調 Hob.XVI:49
- ピアノ・ソナタ第60番 ハ長調 Hob.XVI:50
- ピアノ・ソナタ第61番 ニ長調 Hob.XVI:51
- ピアノ・ソナタ第62番 変ホ長調 Hob.XVI:52
ピアノ:グレン・グールド
録音:1980年~1981年、ニューヨーク、コロンビア30丁目スタジオ
ハイドンは現代の人気作曲家とは言えない。交響曲は一時復興期に入ったように感じられたが、それでもまだまだコンサートの軽い前座のような扱いだ。ましてやピアノ・ソナタは日陰者である。しかし、ハイドンのピアノ・ソナタは名作が揃っている。彼の性格を反映して、極端な感情の表出がなく、それ故、激烈さが抑えられているが音楽の愉悦を品良く届けてくれる。そのハイドンを楽しみながら演奏しているのがグールドである。グールドの後では他の演奏は聴けなくなる。この2枚のディスクをプレーヤーにかけてご満悦になった私は、もうひとつのハイドン(CD 5)を取り出した。
ハイドン:ピアノ・ソナタ 第59番 変ホ長調 Hob.XVI:49
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K.330(300h)
モーツァルト:幻想曲とフーガ ハ長調K.394(383a)
ピアノ:グレン・グールド
録音:1958年1月7-10日、ニューヨーク、コロンビア30丁目スタジオ
こちらにはハイドンは1曲のみ。ピアノ・ソナタの第59番は今回のボックスCDのために新たに再編集され、ステレオ音源として世に出ることになった。これがまた活きが良く、歌に溢れる演奏である。はっきり言ってこれ1曲でボックスセットを購入した甲斐があったと思わせる。しかも、その後に続くモーツァルトがとびきりの演奏だ。ピアノ・ソナタの第10番は言うに及ばず、「幻想曲とフーガ」が目眩をしそうなほど鮮やかで、まさにグールド節全開である。私にはこれ以上言葉がない。
そして、こんなディスクがまだまだ大量にあるのである。何という至福であろうか。物欲に負けた自分をしばらく許してあげようと思う。
(2015年9月15日)
私の自宅にも、悪魔のボックスが届きました。
1981年版ゴルトベルクなんて、オリジナルLP、マスターワークスLP、初出国内CD、別テイクが特典でついたCDセット、再発アメリカ盤CD、再発欧州盤CD、さらにバッハ全集セット、オリジナルジャケット大全集(海外盤)、大全集(国内盤)、今回のリマスター全集。
10回目の購入にもかかわらず、開いて最初にトレイに載せたのが、やっぱり当該ゴルトベルク・・・・・
救いようがないですね。。。。。これでいて、私は普段から「グールドは苦手だ。良く分からない」と言い続けているのですから・・・
松本さんは、グールドが苦手で分からないけど、好きなんですよ。これは間違いないと思いますよ。このたとえは問題があるかもしれませんが、「グールド」のところを「女性(の誰か)」にすれば分かりやすいと思います。