ショスタコーヴィチの交響曲第4番

マーラーの交響曲を全曲聴いたところで私の脳裏をかすめたことがあった。ひょっとすると、ショスタコーヴィチも聴けるかもしれないということだ。そもそも「聴けるかも」と思うこと自体、聴けるということなのである。交響曲第5番や第7番は問題にもならなさそうだ。最難関は交響曲第4番である。

図書館のデータベースを見ると、サロネンの録音があった。

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ショスタコーヴィチ
『オランゴ』プロローグ(世界初録音)
交響曲第4番 ハ短調 作品43
エサ=ペッカ・サロネン指揮ロサンゼルス・フィルハーモニック
ロサンゼルス・マスター・コラール、ほか
録音:2011年12月、ロサンゼルス、ウォルト・ディズニー・コンサート・ホール
DG(国内盤 UCCG1606/7)

ショスタコーヴィチの交響曲第4番を長い間私は忌避してきた。CDは大量に持っていたが、ある時期から身体が拒絶するようになっていたのである。最初の数小節でCDをストップさせることが頻発し、やがて聴かなくなった。その後、ショスタコーヴィチを私は全く受け付けなくなっていた。身体が拒絶反応を示す楽曲の作り手を高く評価できるわけもないから、ショスタコーヴィチに対する私の評価はゼロに等しかった。

実際に聴いてみるとあまりの面白さに絶句した。この曲では諧謔も狂気も全部一緒くたになっている。膨大な数の素材が脈絡もなく登場する作風はマーラー的であり、違和感は全く感じなかった。音的にも楽しめる。DGは録音用マイクを各楽器毎に近接設置したらしく、ソロがクリアに聞こえる。また、オーケストラが強奏に転じるときには暴力的な破壊力をもたらす音が聴ける。

すっかり熱狂した私は都合10回ほどこのCDを聴いて堪能した。しかも、以前に比べるとはるかにこの曲を好きになっている。今までこの曲を忌避していたのは何だったのだろう。

この余勢をかって、私は他の曲にも挑戦した。まず、第8番に挑戦。ゲルギエフ指揮キーロフ歌劇場管弦楽団のCD(PHILIPS)を聴く。全く問題なし。さらに、第15番をロジェストヴェンスキー指揮ソビエト国立文科省交響楽団の演奏で聴いた(VICTOR)。全く問題がないどころか、曲のユニークさと演奏の面白さに唸ってしまった。もうどの曲も大丈夫だ。しかも、私はショスタコーヴィチを以前よりはるかに楽しめるようになったようだ。これは驚きだ。目の前に深く立ちこめていた霧が晴れて、視界が一挙に開けた感じがする。この感覚は他に例えようがない。

私がこのAn die Musikを立ち上げたのは1998年11月である。もうじき開設17年になるのだが、ショスタコーヴィチを楽しんで聴けるというのは、やっと17年前の自分に戻ったことを意味する。随分時間をかけて歩き回った挙げ句に到着したのが17年前の自分の位置だったとは妙な気がするのだが、音楽を楽しめる自分に戻ったことは本当に嬉しい。最高に嬉しい。私は17年前でも、20年前でも、30年前にだって戻ろう。音楽を楽しめることが一番の幸せだ。

(2015年10月3日)