CD売却話の続きです。
CDを売却する際は量が膨大だったので、業者の人に自宅まで来てもらい、査定・梱包・発送までを一挙にやってもらいました。作業が無事終了して業者が帰った後ふとCD棚を見てみると、アルバン・ベルク弦楽四重奏団によるベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲集がぽつねんと取り残されていました。
ベートーヴェン
後期弦楽四重奏曲集
アルバン・ベルク弦楽四重奏団
EMI(国内盤 CC30-3197-200)
アルバン・ベルク弦楽四重奏団のベートーヴェンは旧録音がボックスセット化されています。私はそれを所有しているので、かさばる旧盤は処分しても良いと判断したのですが、業者にとっては余りありがたくもないディスクだったのでしょう。何しろ、古い国内盤で、帯はなく、背表紙は日に焼けているときています。梱包するのを忘れたというより、商品価値なしとして捨て置かれたのかもしれません。
私がこの4枚組CDを買ったのは学生の時で、何と12,000円もしたのです。それが今や商品価値がなくなっているのだとすれば時代の移り変わりを感じざるを得ません。さんざん聴いたCDですし、思い出深いのに処分しようと思った私が悪かったのかもしれません。持って行かれなかったのはきっと何かの縁です。こうなったらこのCDをずっと大事にしていきたいと決心した次第です。ボックスセットの方はディスクの枚数制限があったのか窮屈なカップリングになっているので、これが残ったのは結果的に良かったのだと自分に言い聞かせます。
私は学生の頃、弦楽四重奏曲に熱中していました。アルバン・ベルク弦楽四重奏団が来日した際は、演奏を聴きに出かけたりしました。そして驚きました。演奏に、ではなく、その音にです。なぜなら、CDと同じ音がしたからです。本当に驚きました。私はオーケストラを聴いていてCDと同じ音だと感じたことは今まで一度もありません。これからもないと思います。アルバン・ベルク弦楽四重奏団の演奏をCDで聴いている時は、これほど明確で切れの良い音が聴けるのは録音技術のお陰だとばかり思っていたのですが、そうではなかったのです。それ以来、EMIのアルバン・ベルク四重奏団の録音は興味をもって聴いてきました。1990年代には弦楽四重奏曲の録音といえば何でもかんでもアルバン・ベルク四重奏団の名前が挙がるなど、違和感を覚えたこともあるのですが、歴史に名を残す四重奏団だったことは間違いないでしょう。振り返ってみるとハイドンの弦楽四重奏曲集など、手放すには惜しいCDが随分あったように思えます。だからこそ、EMIにはぜひアルバン・ベルク弦楽四重奏団の全曲録音ボックスセットを出してもらいたいものです。ボックスセットばやりの昨今なのに、あれほどの盛名を馳せたアルバン・ベルク弦楽四重奏団のボックスセットがないのは不思議です。弦楽四重奏曲という渋いジャンルが邪魔をしているのかもしれません。
わが世の春を謳歌していたかに見えたこの四重奏団も、2005年にヴィオラのトーマス・カクシュカが死去すると存続の危機に見舞われましたね。カクシュカの弟子であるイザベル・カリシウスが後を継いだのでそのまま続けるかと思いきや、2008年には四重奏団が解散してしまいました。まことにあっけない幕切れでした。今思えば、私が弦楽四重奏曲をこれまでずっと楽しんでこられたのはアルバン・ベルク弦楽四重奏団のお陰だったような気がします。せめて彼らの録音は聴き続けたいものです。
(2015年3月7日)