つい最近まで自覚はなかったのですが、私はシューベルトが好きらしいです。An die Musik上でもよく取り上げてきたように思います。そしてCD大量処分後にも一定数のディスクが残りました。幻想曲ハ長調 D934もそのひとつでした。
シューベルト
ヴァイオリン・ソナタイ長調 D574
幻想曲ハ長調 D934
「しぼめる花」の主題による序奏と変奏曲 D802 作品160(遺作)
ヴァイオリン:ギドン・クレーメル
ピアノ:ヴァレリー・アファナシエフ(D574 と D934)
ピアノ:オレグ・マイセンベルク(D802)
録音:1990年1月、ベルリン(D574 と D934)、1993年11月、ミュンヘン(D802)
DG(国内盤 UCCG-3648)
D940の幻想曲はピアノ連弾曲でしたが、D934はピアノとヴァイオリンのための曲です。さらにD760の幻想曲はピアノ独奏曲で、世に名高い「さすらい人」幻想曲ですね。
D934の幻想曲もD940同様、シューベルトの死の年に書かれた傑作です。全部で4つの部分に分かれていますが、それも他の幻想曲同様切れ目なく演奏されます。
静寂の中から細く細く音楽が紡ぎ出されてくる第1部の冒頭は神秘的であります。いきなりシューベルトの幽玄の世界に引き込まれます。第2部で音楽が高調していったん元の静けさに戻ると、第3部が始まり、聴き慣れた旋律が聞こえてきます。シューベルトの歌曲「挨拶を送らん(Sei mir gegruesst)」D741であります。シューベルトは自作の歌曲の主題に基づく変奏曲をこの幻想曲の第3部に置いたのです。この部分が全曲の半分近くを占めます。主題自身がシューベルトらしく心に染み入るような旋律である上に、馴染み深いこともあり、この第3部は実に聴き応えがあります。その最後の部分では第1部冒頭の旋律が回帰してきます。その素晴らしさ。第4部はフィナーレらしく明るく楽天的な曲となっていますが、最後にまた「挨拶を送らん」が登場してきます。「挨拶を送らん」はなんて愛くるしい曲なんでしょうね。胸が詰まりそうになります。
クレーメルとアファナシエフのCDはこの曲の美質を余すことなく伝えています。特にクレーメルのヴァイオリンは冴えわたっています。名録音を大量に残してきたヴァイオリニストですが、これは彼の隠れた名録音なのではないかと思っています。
(2015年3月14日)