『さすらいの孤児ラスムス』
1956年作品
アストリッド・リンドグレーン著
尾崎義訳
岩波書店 岩波少年文庫
リンドグレーンの作品は傑作揃いです。作品に底流しているのは子どもに対する溢れるような愛です。子どもを幸福にしたいという作者の強い気持ちが作品の中に滲み出ているために、大人であれ、子どもであれ、読者がそれを共有できた場合には満ち足りた幸福な気持ちに浸ることができるのです。
『さすらいの孤児ラスムス』の主人公ラスムスは9歳の孤児です。親の愛が欠乏しています。ある日、彼は孤児院を逃げ出し、あてのない旅に出ます。その途中にオスカルという謎の男に出会います。どうも風来坊らしいです。人は良さそうだし乞食でもなさそうですが、どうやって生きているの分かりません。ラスムスはこの謎の男オスカルと行動を共にします。その後、大きな事件があります。それが解決した時、ラスカルはお金持ちの農家の子どもにしてもらえそうになりました。しかし、ラスムスはそれを断り、オスカルを追いかけます。オスカルはラスムスを受け入れ、自分の家に連れて行きます。何と彼はちゃんと自分の家を持ち、奥さんもいる立派な人だったのです。そして、オスカルはラスムスを自分の子どもにするのです。ラスムスはここで初めて親と家庭を得ます。
9歳と言えば日本では小学3年生です。その年になれば自分の意見をはっきり主張しますし、時には大人っぽい発言もします。しかし、まだまだ子どもであって、親の愛情が必要な時期です。そんな時期の親のない子どもが温かい愛を得る物語が『さすらいの孤児ラスムス』なのです。子どもがこれを読む際にはこれを単純に少年の冒険小説として楽しむことも可能ではありますが、決してそれだけではありません。ラスムスの気持ちをぜひとも読み取ってほしいと願います。
この本を薦めるのは、そうした心情を理解できる小学5年生以上です。性別に関係なく好評です。
(2015年3月2日)