月別アーカイブ: 2015年2月

チョコレート・アンダーグラウンド

『チョコレート・アンダーグラウンド』
原題”Bootleg”

2003年作品
アレックス・シアラー著
金原瑞人訳
求龍堂

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本はパッケージ商品であると私は考えています。本には人が長い間培ってきたノウハウが集約されているからです。本の大きさ、紙の質、字体、余白、カバーや帯のデザインなど、どれひとつとして安易に作られていません。

その点でもこの『チョコレート・アンダーグラウンド』は出色です。日本語タイトルが示すとおり、これはチョコレートに関する話ですが、本の表紙からしてチョコレート色です。カバーを外すと、本体もチョコレート色。さらに、本文はおろかすべての文字がチョコレート色になっています。こういう本には出版社の愛が感じられます。

内容はユーモラスでもあり、シリアスでもあります。ある国で選挙が行われます。そのとき、健全健康党が自由愛好党に勝ってしまう。主人公の父を含め、多くの人が投票にさえ行きませんでした。多分、健全健康党には組織票でもあったため、投票率が低ければ有利になったのでしょう。選挙で勝利した健全健康党は、世界の秩序を少しばかり正し、世界を住みやすくするだけだと考えられていたのに、政権を掌握するとチョコレート禁止令を発しました。健全健康党は民主的に選ばれた独裁政権になってしまうのです。ばかばかしい設定とも考えられるのですが、選挙の実態を知っている大人が読めばあり得ることだと思わざるを得ません。この点は仮想現実として秀逸です。ただし、それは大人の読み方ですね。子どもは物語の展開を理屈抜きで楽しめるはずです。物語では主人公たちが、禁止されたチョコレートを地下バーで広め、やがて政権を追い詰めます。

子どもは、この本を手渡すと、500ページもある本なのでそのずっしりとした重みにちょっとひるみます。しかし、チョコレート色で作られた本の体裁を教え、1ページの文字数も抑えられ、読みやすく組まれたページを見せると安心して読み始めます。漢字の読みがながやや少ないので、小学4年生には読書力がある場合に、普通は小5からお薦めです。

(2015年2月28日)

きみの友だち

『きみの友だち』

2005年作品
重松清著
新潮社 新潮文庫

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重松清の作品には安易な解決がありません。だから、漫画的に物語が進んで予定調和的なハッピーエンドを迎えたり、苦難の中にいる主人公が突如としてヒロイックな行動を取って読者の溜飲を下げさせる、などということがありません。その代わり現実にあり得る人間関係の機微や、学校でいくらでも起きているいじめを丁寧に、かつ恐ろしいほどの冷静さで描いています。その点が重松清作品に対する好悪を分けることになるでしょう。ただし、彼の作品ではどれほど陰惨な内容であっても、どこかに一筋の光明が見られます。それを私は、厳しい現実の中にも必ず何かしらの希望があることを伝えているのだと解釈しています。

『きみの友だち』はそんな重松清の代表作のひとつです。主人公の恵美と彼女をめぐる複数の人物で物語は織りなされていきます。表紙を見ると、恵美は松葉杖を使って歩いていますね。彼女はなぜ怪我をしたのか。その彼女に対し、周囲はどんな態度で接しているのか。人間が他人に対してどれほど冷酷なことができるのか。目を背けたくなるような現実の中で彼女は生きています。その一方で、彼女の弟はライバルとの切磋琢磨の中で成長していきます。その成長過程がすばらしい。本のタイトルは『きみの友だち』です。「友だち」とは何なのでしょうか。

重松清はリアリズムを追究しているので、夢見るような楽しい物語だけを欲する人には向きません。しかし、電車の中で降車駅を忘れて読み耽ったり、落涙しながら読む人がいるように、読者の心を鷲掴みにする魅力を持っています。子どもに薦める際には、精神的に少し大人になっている小6からが良いでしょう。子どもだけでなく、この作品は大人の鑑賞に完全に耐えます。

(2015年2月27日)

くちぶえ番長

『くちぶえ番長』

2006年作品
重松清著
新潮社 新潮文庫

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重松清の傑作にして重松清作品の入口として最適な本。主人公は小学4年生の男女です。当然小4の男女にうってつけです。

くちぶえ番長とは、主人公ツヨシの小学校にやってきた転校生です。名前はマコト。女の子です。小学4年生ともなれば学校での人間関係は複雑ですし、自分の立ち位置はどこなのかと考えて生きています。そして、その頃からいじめが始まるのです。

マコトは転校のあいさつの中で「わたしの夢は、この学校の番長になることです」と宣言し、「弱い者いじめを見過ごして逃げるような子は、大っきらいです!」と言ってのけます。実は、ツヨシは弱い者いじめを見て見ぬふりをして逃げていたのでした。ツヨシはマコトの言葉に衝撃を受けます。

マコトは言葉だけ勇ましい子ではありませんでした。悪いやつらをバンバンやっつけます。その登場の仕方が最高にかっこいい。一輪車をビュンビュン飛ばしてやってくる。それを自由自在に乗り回し、手にしているパチンコでいじめっ子を撃退します。パチンコは百発百中! 全く痛快であります。マコトの姿を見ているうちにツヨシも気持ちが変わってきます。

いじめとどのように向き合うのか。どうすれば心が強くなれるのか。そんなことをこの本は教えてくれます。重松清には重すぎる作品もあるのですが、この作品はいじめとの戦いを扱いながら暗さや陰湿さをあまり感じさせません。見事な作品です。

(2015年2月26日)

 

ホー HOOT

『ホー HOOT』

2002年作品
カール・ハイアセン著
千葉茂樹訳
理論社

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カール・ハイアセンのヤングアダルト第1弾はこの『ホー HOOT』でした。『フラッシュ FLUSH』同様、こちらもポップな外観の本です。

「ホー」というのは希少種アナホリフクロウの鳴き声です。アナホリフクロウの生息地にファミレスが作られることが決まると、謎の少年がそれを妨害し始めます。その手口が振るっています。工事現場の杭を全部抜いてその穴をご丁寧に埋めておくとか、トイレに本物のワニを入れておくとか、毒蛇を放つとか。果てはブルドーザーの椅子を強奪してしまいます。いくら何でも、そんなことをして捕まらないのでしょうか? 彼は主人公ではありません。主人公はその妨害工作少年に共感し、ファミレス建設を別な方法で合法的に中止させることを思いつきます。

実に分かりやすい内容です。ヤングアダルト作品なので、本来は中学生以上を対象にしていると思われますが、これは小学5年生以上なら楽しく読めるでしょう。また、『フラッシュ FLUSH』同様、中学生くらいで、今まで読書をしてこなかった生徒の読書の入口としても最適です。

(2015年2月25日)

フラッシュ FLUSH

『フラッシュ』

2005年作品
カール・ハイアセン著
千葉茂樹訳
理論社

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『フラッシュ』はアメリカのフロリダ発ヤングアダルト作品です。本の作りは大変ポップで、背表紙は黄緑色の背景に青い文字でタイトルが書かれています。本棚に置くと、少し遠くからでも目に入るので、思わず手に取ってしまいます。パッケージの企画としてはまことに秀逸といえます。姉妹作『ホー HOOT』も同様の造本です。

ここでいう「フラッシュ」とは英語で「FLUSH」と書きます。「FLASH」ではありません。「FLUSH」とは例えばトイレの水をジャーッと流す時の音を指しています。奇妙なタイトルなのですが、これは内容に関連しています。フロリダの海上に浮かぶカジノ船は、乗客の糞尿を浄化処理をしないまま海に垂れ流しています。その結果、子どもたちが泳ぐ浜辺は、あろうことかその糞尿にまみれてしまうのです。あまり想像したくない光景ですね。主人公の少年の父は、環境問題になるとたちまち頭に血が上ります。環境が破壊されるのを黙っていられないので即実力行使に出ます。その結果留置場送りになるのですが、その子も親の血をしっかり受け継いでいました。そして彼は環境も守るべく秘計を練るのであります。・・・というのがあらすじであります。

ヤングアダルト向けの本の多くは娯楽要素が強くて漫画的展開のものが多いのですが、読み物としては非常によくできています。小5以上なら楽しめるでしょう。また、中学生くらいで、今まで読書をしてこなかった生徒の読書の入口として最適ですし、生真面目すぎる作品、深刻な作品を敬遠しがちな生徒にも安心して薦められます。

(2015年2月24日)

びりっかすの神さま

『びりっかすの神さま』

1988年作品
岡田淳著
偕成社

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二分間の冒険』と並んで子どもの読書への入口となりうる本に、やはり岡田淳の『びりっかすの神さま』があります。この本は活字も大きく組まれており、ページ数も約160と実に手頃です。そして何よりも物語に力があります。小学校のテストでびりっかすになるとびりっかすの神さまを見ることができることを知った小学生達はこぞって最下位を取ろうとします。その理由を知るよしもない担任の先生は周章狼狽するばかりです。しかし、びりっかすの神さまを見ることができるからといって、全員が最下位を目指すというのはいかがなものでしょうか。びりっかすの神さまはそれを喜ぶのでしょうか。・・・というのがこの物語の筋です。

岡田淳の本の魅力は物語が面白いだけでなく、何かしら重要な主題・メッセージが込められていることです。『びりっかすの神さま』でも、本当に大事なのはベストを尽くすことだと教えてくれます。そして、小学生達がベストを尽くすことの楽しさを覚えるとびりっかすの神さまは消えてしまうのです。

『びりっかすの神さま』は小学3年生から読めます。ただし、誤解のないように書いておきますが、小学3年生から読める本だからといって、その上級生が必ずしも主題を正確に読み取れるわけではありません。中学1年生でもこの主題を読み取れなかった生徒はいます。小学3年生からというのはあくまでも一つの目安なのです。同じ学年の生徒が全員同じ読書力であるわけはないのですから、選書はその生徒の読書力に応じて行わなければならないのです。ですから、小学3年生といわず、高学年の生徒にもぜひこの作品を読んで読書の楽しさを味わってほしいものです。

(2015年2月22日)

二分間の冒険

『二分間の冒険』

1985年作品
岡田淳著
偕成社 偕成社文庫

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岡田淳の傑作です。タイトルはジュール・ベルヌの名作『二年間の休暇』を意識していると思われます。

読書習慣のない小学生には岡田淳の作品を薦めてみましょう。この作品は小学4年生から、かつ、男女関係なく薦められます。子どもたちは熱中して読むでしょう。この本を手にして、「つまらなかった」という反応を示した子どもにはまだ出会ったことがありません。子どものハートを引きつける強烈な磁力を持つ作品です。

『二分間の冒険』における主人公の小6男子 悟は別世界に入って、その世界でいちばん確かなものに姿を変えている「ダレカ」を探さなくてはなりません。物語は主人公が「ダレカ」を探す旅です。そしてその長い物語が2分間の間に起きていたというものです。

岡田淳の作品の多くには何かしらの主題があり、ただ面白いだけではありません。また、作品のどの部分をとっても絵になるという特筆すべき長所があります。『二分間の冒険』もその例に漏れません。このまま映画化できないものだろうかと私は思っているのですが、1985年に発表されて以来、誰も映像化を企画しなかったのは不思議です。

お母様方からは「子どもに名作を読んでもらいたいのだが、なかなか読んでくれない」という話をよく聞きます。ありがちな悩みなのですが、現代の小学生が、特に読書週間のない小学生が古典的名作を読まないのは当然でもあります。なぜなら、古典作品の時代背景が子どもに理解できないし、多くは長大であるためです。無理に古典の名作を子どもに押しつけると、子どもは本そのものを嫌いになる可能性があるので危険です。古典的名作を私は非常に愛好していますが、それと同時に、読書の入口としては厳しいとも認識しています。一方、岡田淳の作品は無理なく子どもを読書の世界に誘ってくれるでしょう。安心して子どもにお勧めください。

(2015年2月21日)

二年間の休暇

『二年間の休暇』(上・下)

1888年作品
ジュール・ヴェルヌ著
朝倉剛訳
福音館書店 福音館文庫

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『15少年漂流記』としても名高い古典的名作。ニュージーランドの少年たちが無人島に漂着し、そこで生活し始めるという冒険ものです。サバイバルものとしては『ロビンソン・クルーソー』や『ひとりぼっちの不時着』のような必死度が高くありません。むしろ、この作品では、少年が15人もいることから二つのグループの反目とそれにかかわる人間ドラマが中心となっています。

ジュール・ヴェルヌは多作でしたが、子ども向けの作品として書かれたのはこれだけです。ヴェルヌは少年たちの群像劇を書きたかったのでしょう。沈着冷静なアメリカ人ゴードン、聖人君子的リーダーのブリアン、自尊心が強すぎるドニファンを中心に物語は展開します。男子ばかりが15人というのがポイントで、15人の中にひとりでも女子が混じっていたらかなり違った物語ができていたに違いないと私は思っています。

以前、夏休みの読書感想文にこの作品を取り上げている生徒を見かけたことがあります。小学5年生の男子でした。それを見て、今でも『二年間の休暇』が読み継がれていることを知り、私は大変嬉しく思いました。その小5男子は感想文を仕上げるのに四苦八苦していましたが、この作品を読み、この作品の感想文を書こうと思い立ったことを誉めてあげたくなりました。

福音館文庫では上巻が約300ページ、下巻が約220ページと十分な長さがあります。ただし、物語のテンポ感は極めて良く、また、難しそうな漢字には読み仮名が振られているので、早ければ小学4年生から読めるでしょう。ただし、別に早い時期からこのような傑作を読まなくても良いのです。小学5年生後半あたりになって精神的にも成長し、集団の中での自分の位置を理解できるようになったら、この作品をより良く味わえることと思います。

(2015年2月20日)

ひとりぼっちの不時着

 『ひとりぼっちの不時着』

1987年作品
ゲイリー・ポールセン著
西村醇子訳
くもん出版

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ある日、なかなか選書が難しい中学1年生男子にこれを貸し出したところ、文字通り夢中になってしまい、貪るようにして読んでいました。男子向けの本というものがあるのですね。

主人公のブライアンは、母と離婚した父に会うために小型飛行機に乗ります。ところが、飛行中に運転士が急死してしまいます。ブライアンは何とか見よう見まねで湖に不時着しますが、命からがら脱出してみるとそこはカナダの深い森の中でした。彼はたまたま持っていた手斧と自分の才覚だけで生きていかなければなりません。まさに『ロビンソン・クルーソー』の現代版といえましょう。

人間が自然界でたったひとりで生きることがどれだけ困難なことか。道具や武器を持たない人間は全く無力なのです。情けないほど無力です。それこそ小動物にまで良いようにされてしまうのです。それでも、ブライアンは人間らしく知恵を働かせて必死に生きます。

終盤近くに、ブライアンは湖に沈んだ飛行機から数々の道具を引き上げます。その中にライフルとライターがありました。彼はそれらを手にした瞬間、周囲から切り離されたという感覚を持ちます。今までは自分は他の動物と同じ自然界の一部だったのに、ライフルという圧倒的な武器とライターという自由に火を作り出せる道具は、人間を自然界から切り離せるほどの全能感を与えるものなのですね。

『ロビンソン・クルーソー』は名作ですが分厚く、また、古典であるが故に時代背景を理解できない場合は取っつきにくいという欠点がないわけではありません。一方、『ひとりぼっちの不時着』は230ページほどですから読みやすいことこの上ありません。小学5年生以上なら楽しんで読めるでしょう。

(2015年2月19日)

ロビンソン・クルーソー

『ロビンソン・クルーソー』

1719年作品
ダニエル・デフォー著
坂井晴彦訳
福音館書店 福音館古典童話シリーズ

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古典的名作。ロビンソン・クルーソーが航海の途中で無人島に流れ着き、そこでサバイバル生活を送るという物語です。300年も前に書かれたというのに、内容に古さは感じられません。子どもが読んでも抜群に面白いし、大人が読んでも今なお第一級の娯楽作品です。

読む前から無人島での生活に関する疑問は尽きません。無人島で人間は生きていけるのか。衣食住はどうするのか。絶望しないのか。その答えはすべて本の中にあります。また、もともと大人向けに書かれただけに、人生に関する教訓も盛りだくさんです。それらは遠回しにではなく、いちいち明記してあるのです。その中には大人が読めば膝を打って快哉を叫ぶような文言が多数あるのですが、その部分だけは子どもにはやや退屈に感じられるかもしれません。

著名な作品であるだけに様々な版でこの作品は出版されています。この福音館古典童話シリーズ版は完訳ではありませんが、それでも423ページと十分な長さです。しかし、できれば、このくらいの分量は読んでほしいものです。あまり簡略化された版だと、面白さが半減してしまうからです。

そうなると、対象年齢はちょっと上がってきてしまいます。早くても小学5年生からが良さそうです。男子なら夢中になって読むでしょう。

(2015年2月18日)

ヒーローなんてぶっとばせ

『ヒーローなんてぶっとばせ』

1996年作品
ジェリー・スピネッリ著
菊島伊久栄訳
偕成社

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物心つく前から腕力・体力自慢だった少年クーガンは俊足でもあり、中学校ではフットボールで脚光を浴びます。そのため、自分のことを相当すばらしい男だと自惚れています。しかし、彼は人気があるどころか反感を買っています。それが自分では分かっていません。一方、彼の近くには菜食主義者で、非戦闘的で、しかもチア・リーダーを志望するウェッブがいます。マッチョなクーガーは軟弱なウェッブが気に入りません。あの手この手を使って虐めます。しかし、そのクーガーにも変化が訪れ・・・・というストーリーです。単細胞なクーガーがウェッブを認め、やがて友人となるまでの描写は爽やかな感動を与えます。そうした点はアメリカ的ですね。日本の作品ではなかなかこうはいきません。

ページ数は265と手頃ですし、ストーリーが分かりやすいので小学5年生から読めます。男子でも女子でもOK。もさほど時間をかけずに楽しんで読めるはずです。

(2015年2月17日)

ニルスのふしぎな旅

『ニルスのふしぎな旅』(上・下)

1906-07年作品
セルマ・ラーゲルレーヴ著
菱木晃子訳
福音館書店 福音館古典童話シリーズ

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上巻・下巻ともに500ページを超える大作です。

ストーリーは、14歳の少年ニルスがスウェーデンを南から北に旅し、また故郷に戻ってくるという物語の王道を守りながら、数々のエピソードによって彩られています。波瀾万丈の冒険はいわゆるファンタジー的ですが、神話的な物語も多数含み、感動的でもあります。子ども向けのファンタジーとして扱うにはもったいなさ過ぎる傑作です。

ラーゲルレーヴはスウェーデンの人で、スウェーデンの国土を心から愛していたのでしょう、この本を読み進めていくと、スウェーデンの美しさ、豊かさに目を見張ることになります。このような本が日本に見当たらないのは残念で仕方がありません。

福音館古典童話シリーズは造本がしっかりしており、活字も読みやすいのが特長です。しかし、大人が手にしてもずっしりと重いです。電車の中で読むのは厳しいかもしれません。偕成社文庫版は全4巻にしてありますから、持ち運び用にはそちらが良いかもしれません。ただし、大人であれば福音館版を愛蔵してしまいたくなるのではないでしょうか。

子どもが読む場合、読もうと思えば小3から読めるかもしれません。ただし、この物語の深さを味わえるとは思えませんし、長大さに辟易とし、途中で挫折する可能性が高いです。もしお子様に読んでもらうとすれば、小5の後半からが良いでしょう。その場合も、いきなり読破することを期待せず、本人が食いつくのをゆっくり待ってあげるのが良いでしょう。もし読破できれば大変な自信がつくと同時に、この物語の世界を堪能できたはずです。また、途中で投げ出しても、そこまでの旅を楽しめたのであればそれで十分です。

(2015年2月16日)