ドン・キホーテ

『ドン・キホーテ』

1605年、1615年作品
セルバンテス著
牛島信明編訳
岩波書店 岩波少年文庫

donki

世界的に著名なこの作品は、読後には哲学的思考をせざるを得なくなるという点で今なお大きな存在感を持っています。元来、長大な作品であり、全体の分量は、岩波文庫でも6分冊となっているほどです。岩波少年文庫版は全体を6分の1に圧縮し、単行本化したものです。その意味では完訳版からはほど遠いのですが、これでもドン・キホーテの魅力は十分に伝わるでしょう。そして、その岩波少年文庫版でも中学生上の読み物なのです。大人が読んでも差し支えありません。

風車を巨人と思い戦いを挑むドン・キホーテ。羊の群れに飛び込み包囲されるドン・キホーテ。目の前の旅館を騎士にふさわしい城と言い張るドン・キホーテ。この主人公の数々の言動は誰がどうみても狂っているとしかいいようがありません。しかし、彼は死に際して、あたかも真の騎士のように至極真っ当な遺言を残します。その中で、自分が騎士として遍歴をしていたのは狂気に陥っていたからだと明言します。

彼は本当に狂っていたのでしょうか? もし狂っていたのであれば、彼は不幸だったのでしょうか? ドン・キホーテは物笑いの種となり、馬鹿げた行動の報いとしてさんざんな目に遭い続けます。それでも、彼を心配し、家に連れ帰ろうとする人たちがいて、実際に彼を帰郷させることに成功しています。最後には肉親たちや彼を慕うサンチョ・パンサに看取られながら死んでいくのです。また、誰からも認められることがなくてもドン・キホーテはやりたい放題の騎士生活を過ごせたわけでもあり、内面的には非常に満ち足りた人生を送ったとも考えられるのです。

『ドン・キホーテ』を時代錯誤の夢物語に取り憑かれた男の荒唐無稽な遍歴を描いた愉快な娯楽作品と見ることもできます。しかし、それだけではないのです。だからこそ400年の時を超えて現代まで読み継がれているのです。少年たちにはまだ難しいかもしれないのですが、セルバンテスが何故この作品を書いたのか、この作品の裏に何があるのかをわずかでも考えながら読んでほしいと思います。それは貴重な読書体験になるでしょう。

(2015年3月18日)