秘密の花園

『秘密の花園』

1809年作品
フランシス・ホジソン・バーネット著

猪熊葉子訳
福音館書店 福音館古典童話シリーズ

土屋京子訳
光文社 光文社古典新訳文庫

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『小公子』や『小公女』で有名なバーネットの傑作。イギリスの植民地インドで王侯貴族同様の豪奢な生活をしてきた尊大な性格の少女メリー(光文社版ではメアリ)は、両親を亡くし、故国に住む遠縁の親戚に引き取られます。気が滅入るほど陰気で広大な屋敷内には心身を病んだ少年コリンが幽閉されるようにしてひっそりと暮らしていました。やがてメリーとコリンはその屋敷に隠されていた秘密の花園を、誰にも知られないようにして作り上げていきます。その過程で、特殊な環境にいたために人格形成にやや問題があった少年少女は大きく成長していくのです。

福音館古典童話シリーズの表紙には少女が花園への扉を開ける絵が使われています。花園が舞台となること、第1の主人公が少女であることから男子はこの本を敬遠しがちです。しかし、傑作だけにこれを女子向けの本としてしまうのはもったいないです。第2の主人公が少年であり、彼が逞しく変貌する過程は痛快でもあるので、ぜひ男子にも読んでもらいたいところです。

対象年齢は小学5年生から。活字も大きめで非常に読みやすい光文社古典新訳文庫もありますが、福音館書店版に比べると読みがなが少ないのでその点についてだけは注意が必要です。

尚、本作品は1993年にフランシス・コッポラの制作総指揮で映画化されています(監督はアニエスカ・ホランド)。映像美が賞賛されていますが、残念ながら原作小説の魅力をあまり伝えていません。バーネットの小説からは言葉の力をまざまざと感じます。

(2015年3月10日)