ひとりぼっちの不時着

 『ひとりぼっちの不時着』

1987年作品
ゲイリー・ポールセン著
西村醇子訳
くもん出版

hi

ある日、なかなか選書が難しい中学1年生男子にこれを貸し出したところ、文字通り夢中になってしまい、貪るようにして読んでいました。男子向けの本というものがあるのですね。

主人公のブライアンは、母と離婚した父に会うために小型飛行機に乗ります。ところが、飛行中に運転士が急死してしまいます。ブライアンは何とか見よう見まねで湖に不時着しますが、命からがら脱出してみるとそこはカナダの深い森の中でした。彼はたまたま持っていた手斧と自分の才覚だけで生きていかなければなりません。まさに『ロビンソン・クルーソー』の現代版といえましょう。

人間が自然界でたったひとりで生きることがどれだけ困難なことか。道具や武器を持たない人間は全く無力なのです。情けないほど無力です。それこそ小動物にまで良いようにされてしまうのです。それでも、ブライアンは人間らしく知恵を働かせて必死に生きます。

終盤近くに、ブライアンは湖に沈んだ飛行機から数々の道具を引き上げます。その中にライフルとライターがありました。彼はそれらを手にした瞬間、周囲から切り離されたという感覚を持ちます。今までは自分は他の動物と同じ自然界の一部だったのに、ライフルという圧倒的な武器とライターという自由に火を作り出せる道具は、人間を自然界から切り離せるほどの全能感を与えるものなのですね。

『ロビンソン・クルーソー』は名作ですが分厚く、また、古典であるが故に時代背景を理解できない場合は取っつきにくいという欠点がないわけではありません。一方、『ひとりぼっちの不時着』は230ページほどですから読みやすいことこの上ありません。小学5年生以上なら楽しんで読めるでしょう。

(2015年2月19日)