ぼっこ

『ぼっこ』

1998年作品
富安陽子著
偕成社

bok

この作品には座敷わらしがでてきます。上掲の表紙を見てください。瓦屋根の上にきかん坊の雰囲気濃厚な男の子が座っていますね。これがこの家の座敷わらし「ぼっこ」です。でも、座敷わらしなんて本当にいるんでしょうか? それに、そんなものが出てくる話は現代に通用するのでしょうか?

これはずいぶん昔の話です。小学5年生のしげるは祖母の葬儀のために田舎に行きます。しげるはその古い家の奥座敷で奇妙な男の子ぼっこに会います。座敷に座っているぼっこは「オレが、ついててやる。だから、心配はいらんで」と言います。

都会から引っ越してきてその家に住むことになったしげるは、同級生との付き合い方に戸惑います。さっそくいじめにも遭いそうになります。しかし、何かがあると、その都度ぼっこが助けてくれるのです。そのお陰でしげるは同級生達の輪に溶け込んでいきます。ただし、この物語はそれだけで終わりません。

しげるはぼっことの付き合いを通じて古い家には家の力があることを知ります。だから、古い家を大事にしたいという気持ちを持っています。しかし、時代の波はそんな家の力を押しつぶしていきます。何と、しげるが住む田舎がニュータウンに変貌し、古い家はなくなっていくのです。ここは意外な展開です。富安陽子は、座敷わらしを取り上げていながらも、最後にはリアリズムに徹したのですね。最後は大人になったしげるがぼっこを回顧するという形で物語を締めくくっています。座敷わらしがいそうな過去とそうでもない現在をこうしてつないだのですね。

この本は、活字もゆったり組まれていますし、読みがなも数多く振られていますから、読もうと思えば小学3年生から読めます。しかし、物語最後のあたりの理解を考えると小4以降からの方が楽しめるでしょう。

(2015年3月8日)