鬼の橋

『鬼の橋』

1998年作品
伊藤遊著
偕成社

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読書意欲をかき立てるには地味な表紙ですね。内容を知らなければ、子どもが自分から進んで手に取ることはまれかもしれません。しかし、これは名作です。読み始めたら止まらないはずです。小学5年生以上の生徒に是非楽しんでもらいたいです。そして、日本の歴史や古典に少しでも興味をもってもらえたら嬉しいです。

舞台は平安時代初期の都。貴族の嫡男である少年 小野篁(たかむら)が主人公です。彼はふとしたことから現世と冥界の境目に落ちてしまいます。そこには橋があり、その先には人が死後に行く冥界があるのです。しかし、その橋には鬼がいます。鬼に捕まれば、冥界にたどり着く前に食らわれてしまいます。篁も危機にさらされます。そのとき、征夷大将軍 坂上田村麻呂が篁を助けます。田村麻呂は奥州征伐の折の残虐行為によって冥界に入ることを許されず、しかも、死してなお都を守護する役目をその場所で務めていました。

このように、『鬼の橋』は小野篁と坂上田村麻呂という平安時代の著名人を中心に据えたファンタジーです。篁はなんということもない貴族の子弟として登場しますが、数々のピンチをくぐり抜けることによって、最後には父親が瞠目するほど凜々しい少年になっています。ファンタジーでありながらも、あの小野篁はこうしてできあがったのかと納得する物語であります。

なお、小野篁の歌

わたの原 八十島かけて 漕ぎいでぬと
人には告げよ 海人の釣舟

が小倉百人一首に入っていますね。百人一首を知っている生徒がいたら、その歌を詠んだ人の話だと教えてあげてください。

(2015年3月14日)