『幕が上がる』
2012年作品
平田オリザ著
講談社 講談社文庫
劇作家 平田オリザによる小説。2015年にももいろクローバーZ主演の映画化によって脚光を浴びた作品でもあります。高校の演劇部を舞台にしていることや、女子高生の話し言葉で書かれていることから、軽い読み物であるように錯覚しますが、決してそうではありません。演劇の世界で活躍してきた平田オリザの演劇理論、特に演出とはどういうものなのか、その一端を垣間見ることができます。
ある高校の弱小演劇部に、舞台経験のある先生が赴任し、演劇部の副顧問になります。さらに、転校してきた実力派の女子生徒が入部してきます。そのあたらりから、主人公の高橋をはじめとした演劇部員は寝ても覚めても演劇の世界に浸るようになります。高橋は演出家としての才能があり、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を部員が演じられるように台本を作っていきます。そして、今までは弱小だった演劇部員たちは地区大会、ブロック大会、さらには全国大会を目指すようになるのです。
このあらすじだけを見ると、映画や漫画のスポ根物にありがちな展開ですね。確かに、この作品にそういう面があることは否定しません。しかし、この物語は大会で賞を勝ち取ることの素晴らしさを描いているのではなく、演劇がどのようにしてできあがっていくかを描いているのです。
主人公の高橋は『銀河鉄道の夜』を宮沢賢治の原作通りには上演していません。高橋がそれをどのように変えていくのかが後半の大きな山場となっています。自分たちがやりたいことを形にすることの難しさ。それができたときの喜び。平田オリザはそれを一気に読ませます。
対象は中学生以上。大人にもお勧めです。
(2015年3月14日)
追記
映画は予告編を見る限り、原作を大幅に変えているようです。映画は映画であって、原作の忠実な映像化とは限らないのでご注意くださいね。