『ぬすまれた宝物』
1973年作品
ウィリアム・スタイグ著
金子メロン訳
評論社
これは本文が90ページもありませんし、挿絵もあるので小学3年生なら楽しんで読める本です。しかし、この本の内容が薄っぺらいわけでは決してありません。大人の鑑賞に十分に堪えます。
がちょうのガーウェインは王宮の宝物殿を毎日誇りを持ちながら警備していました。それなのに、王様が大事にしていた宝物がそこからなくなっていきます。警備役のガーウェインに疑いの目が向けられ、裁判にかけられます。王様をはじめ、誰もがガーウェインを犯人だと思い込みます。ガーウェインは世を儚んで逃げ去り、誰も来ない場所でひとりで寂しく暮らし始めるのです。ところが、犯人だと目されていたガーウェインが逃げた後も、宝物殿から宝物はなくなっていきます。そのときになってはじめてガーウェインが犯人ではなかったと人々は理解します。そして、ガーウェインに無実の罪を着せたことを悔やみ始めるのです。
物語ではガーウェインが真犯人を許し、自分を犯人扱いした王様も許します。それによってこの冤罪事件は幕を下ろします。ハッピーエンドなので読後感も良いのですが、扱うテーマには深みがあります。著者のスタイグは許すことの重要性を子どもにも理解できる表現を使って、90ページ弱の作品で描いたのです。スタイグの筆力に惚れ惚れとするしかありません。
(2015年3月6日)