海底二万海里

『海底二万海里』(上・下)

1870年作品
ジュール・ヴェルヌ著
清水正和訳
福音館書店 福音館文庫

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ヴェルヌの傑作冒険科学小説。ネモ船長の潜水艦ノーチラス号にとらわれの身となったフランスの海洋生物学者アロナックス教授たち3人は、世界中の海で驚異に満ちた体験をします。この作品が発表されたのは1870年で、電気で動く潜水艦が就航するのは1888年でした。まさに時代を先取りした作品であり、しかも、今も古さを微塵も感じさせない圧倒的な作品です。

ヴェルヌは空想に基づき、小説としてこの作品を仕上げました。しかし、その書きぶりはまるでノン・フィクションです。彼の筆は微に入り細を穿ち、どのページの記述もまるで本人が見てきたようになされています。おそらく周囲には大量の資料を山積みにしてこの作品を書き上げたのでしょうが、ヴェルヌ自身の研究の成果に触れているような錯覚を覚えます。

潜水艦ノーチラス号のネモ艦長は謎の人物として描かれています。性格的描写はあるものの、出自やノーチラス号を建造し世界の海を航行する理由は説明されていません。しかも、ノーチラス号とネモ艦長らが最後にどうなったかも明記されていません。実は、こうした謎の解決はヴェルヌの別作品『神秘の島』に引き継がれているのです。まるでハリウッド映画のようですね。どうしたって続編を読みたくなるようにできています。

名作であるためにこの本も多数の版が出ています。ただし、ベルヌの並外れた創作力を満喫できるよう、抄訳ではなく完訳をお薦めしたいです。問題は長編であることです。福音館古典童話シリーズでは750ページもあり、まるで辞書のようです。子どもたちには、せめてそれを上下巻に分割した福音館文庫や岩波少年文庫等で楽しんでもらいたいです。

抄訳なら簡易版がありますのでその版によっては小学2,3年生から読めるでしょう。完訳版は小学6年生以上にお薦めです。最初の30ページをクリアできたら、ノーチラス号とともに世界の海を冒険できるでしょう。

(2015年3月9日)