『二年間の休暇』(上・下)
1888年作品
ジュール・ヴェルヌ著
朝倉剛訳
福音館書店 福音館文庫
『15少年漂流記』としても名高い古典的名作。ニュージーランドの少年たちが無人島に漂着し、そこで生活し始めるという冒険ものです。サバイバルものとしては『ロビンソン・クルーソー』や『ひとりぼっちの不時着』のような必死度が高くありません。むしろ、この作品では、少年が15人もいることから二つのグループの反目とそれにかかわる人間ドラマが中心となっています。
ジュール・ヴェルヌは多作でしたが、子ども向けの作品として書かれたのはこれだけです。ヴェルヌは少年たちの群像劇を書きたかったのでしょう。沈着冷静なアメリカ人ゴードン、聖人君子的リーダーのブリアン、自尊心が強すぎるドニファンを中心に物語は展開します。男子ばかりが15人というのがポイントで、15人の中にひとりでも女子が混じっていたらかなり違った物語ができていたに違いないと私は思っています。
以前、夏休みの読書感想文にこの作品を取り上げている生徒を見かけたことがあります。小学5年生の男子でした。それを見て、今でも『二年間の休暇』が読み継がれていることを知り、私は大変嬉しく思いました。その小5男子は感想文を仕上げるのに四苦八苦していましたが、この作品を読み、この作品の感想文を書こうと思い立ったことを誉めてあげたくなりました。
福音館文庫では上巻が約300ページ、下巻が約220ページと十分な長さがあります。ただし、物語のテンポ感は極めて良く、また、難しそうな漢字には読み仮名が振られているので、早ければ小学4年生から読めるでしょう。ただし、別に早い時期からこのような傑作を読まなくても良いのです。小学5年生後半あたりになって精神的にも成長し、集団の中での自分の位置を理解できるようになったら、この作品をより良く味わえることと思います。
(2015年2月20日)