きみの友だち

『きみの友だち』

2005年作品
重松清著
新潮社 新潮文庫

kimi

重松清の作品には安易な解決がありません。だから、漫画的に物語が進んで予定調和的なハッピーエンドを迎えたり、苦難の中にいる主人公が突如としてヒロイックな行動を取って読者の溜飲を下げさせる、などということがありません。その代わり現実にあり得る人間関係の機微や、学校でいくらでも起きているいじめを丁寧に、かつ恐ろしいほどの冷静さで描いています。その点が重松清作品に対する好悪を分けることになるでしょう。ただし、彼の作品ではどれほど陰惨な内容であっても、どこかに一筋の光明が見られます。それを私は、厳しい現実の中にも必ず何かしらの希望があることを伝えているのだと解釈しています。

『きみの友だち』はそんな重松清の代表作のひとつです。主人公の恵美と彼女をめぐる複数の人物で物語は織りなされていきます。表紙を見ると、恵美は松葉杖を使って歩いていますね。彼女はなぜ怪我をしたのか。その彼女に対し、周囲はどんな態度で接しているのか。人間が他人に対してどれほど冷酷なことができるのか。目を背けたくなるような現実の中で彼女は生きています。その一方で、彼女の弟はライバルとの切磋琢磨の中で成長していきます。その成長過程がすばらしい。本のタイトルは『きみの友だち』です。「友だち」とは何なのでしょうか。

重松清はリアリズムを追究しているので、夢見るような楽しい物語だけを欲する人には向きません。しかし、電車の中で降車駅を忘れて読み耽ったり、落涙しながら読む人がいるように、読者の心を鷲掴みにする魅力を持っています。子どもに薦める際には、精神的に少し大人になっている小6からが良いでしょう。子どもだけでなく、この作品は大人の鑑賞に完全に耐えます。

(2015年2月27日)