天童荒太の『あふれた愛』(講談社文庫)を読む。
4つの切ない短編が収録されている。
第1話「とりあえず、愛」は育児ノイローゼの妻を心配するどころか責めてしまったために離婚を宣告される男の物語だ。
第2話「うつろな恋人」は主人公の男がふと知り合った女性が、現実には存在しない、幻の恋人を見ているという物語だ。その女性は幼少の頃両親から受けた心の傷から精神的に病んでいる。
第3話「やすらぎの香り」は子供の頃からの精神的抑圧で心が壊れてしまった男女が何とか支え合って生きていく物語だ。
第4話「喪われゆく君に」は、目の前で人の死を見た若者の話だ。深夜のコンビニでバイトしていると、目の前で買い物中の客が突然死する。若者は、死んだ客とその妻の思い出の場所を辿る。
いずれも心に響く作品だが、後半の2作品が特に印象深い。私はページをめくる手を止めることができなかった。
(2015年8月7日)