なだいなだ 『心の底をのぞいたら』

なだいなだの『心の底をのぞいたら』(ちくま文庫)を読む。

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初版は1971年である。長く読み続けられているのは、平明でありながらも読者の心に残るものがあるからだろう。おそらく中学生を対象にして書かれているが、大人にとっても読み応えがある名著だ。

後半になるにつれて内容は深まっていく。人間はなぜ兄弟げんかをするのか、男女の肉体上の違いはどんな影響をもたらすのか、思春期とは何か、思春期に友情を育むことができるのは何故か、などについてなだいなだは明解に解説する。

私が注目したのは、逃げることについてなだが積極的な評価をしていることであった。なだはこう言う。
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攻撃のための武器、牙だとか、角だとかがなくても、ただ逃げるための速い足をもっているだけで、この地上の生存競争で、生きぬき、生き残っている動物がどれだけいるかわからない。そのことは、この地上の動物を見まわしてみればすぐわかる。弱肉強食の原則の厳しい自然で、弱い、ただ逃げるだけしかとりえのない動物が、たくさん生き残っていて、強い、りっぱな牙や角を持った動物が、死にたえそうになっている。
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なだによれば、逃げることは決して卑怯ではない。逃げることによって生き残った方が良いのだ。そして、なだは、社会的な価値を持ってしまった勇気というものに疑問を投げかける。これは第4章「三十六計、逃げるにしかず」わずか16ページの中で述べられているが、本当に考えさせられる。多分、中学生には強いメッセージになって届くだろう。こうしたことが書かれているからこそ本書はロングセラーになっているのだろう。

(2015年10月3日)