浅田次郎 『蒼穹の昴』

浅田次郎の『蒼穹の昴』(全4巻。講談社文庫)を読む。

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これは清朝末期の中国を舞台にした歴史小説である。ミステリーでもあり、ファンタジーでもある。

物語には西太后、李鴻章、康有為、袁世凱といった歴史上の人物が登場する。19世紀末の清朝は日本を含めた列強に国を浸食されており、国威は衰退するばかりである。帝国最盛期を築いた乾隆帝亡き後、清朝は皇帝に人を得ていないが、それには理由があったのだ。ある日乾隆帝は、愛を知らぬ皇帝一人が4億の民を支配する帝政を途絶させることを決意する。そして、天命がある者が持つ龍玉(巨大なダイヤモンド)を隠したのである。しかも、自分の後に英明な皇帝が現れないように呪いを掛けた。その結果、乾隆帝以後の皇帝たちには天命も力もなくなったのだ。乾隆帝の考えを知る西太后は自分の代で清朝の命脈を尽きさせ、二度と中国で帝国が生まれないように必死の努力をしている。

中国の歴史について知識を深めることができる点では優れた作品だ。科挙や宦官についての記述も興味深かった。また、李鴻章や乾隆帝の人物像は非常に魅力的だった。おそらく浅田次郎自身が心酔した人物だったのだろう。

しかし、設定が非現実的という印象が払拭できない。上記のあらすじを書いていて、その感覚はさらに強くなった。天命がないとはいえ、自王朝滅亡を目的とした為政者が本当にいるのだろうか。西太后を悪者として描かず、好意的に評価しようとすれば、このような設定にならざるを得ないのだろうが、私は非現実的だとしか考えられない。そのためにどうしても作品に没入できなかった。感動大作として知られる作品であるにもかかわらず、読後にはカタルシスではなく、長大な物語から解放されたという奇妙な感覚が残った。

(2015年8月12日)