藤本634 『腐ったら負け HKT48成長記』

藤本634の『腐ったら負け HKT48成長記』(角川春樹事務所)を読む。

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腐ったら負けなのでがんばれ、という人生訓が書かれている本ではない。これは、2011年5月11日、AKB48の姉妹グループとしてHKT48の結成が発表されてから現在に至るまでのグループ及びメンバーの成長記録だ。児玉遙、宮脇咲良、田島芽瑠など多くの若手メンバーが苦悩しながら今のHKT48の中で生きてきたことが本人たちのインタビューを交えながら示されている。

この本で改めて明らかになったのは指原莉乃の力だ。それは、結成されてから成長の踊り場にいたHKT48が指原の移籍を機に離陸できたことにとどまらない。指原がHKT48の精神的支柱であり続けていることが重要だ。指原は年端も行かぬ若いメンバーとは精神面で全く違っている。この本では、HKT48のメンバーがどこそこのポジションを取れなかったから悔しい、動揺する、泣く、という記述が延々と続く。しかし、指原についてだけはそのレベルの言及がない。AKB48の指原の中では数々の葛藤があっただろうが、HKT48での指原はそれをおくびにも出さない。AKB48を追放され、HKT48に移籍した瞬間から立ち位置が他のメンバーと違っているのだ。つまり、自分のことだけを考えるのではなく、チーム全体を盛り上げることを最優先にして動いている。昨年出版された指原の『逆転力』(講談社)を読んだ際にも感じたが、HKT48を作り上げたのは指原だ。HKT48という企画は秋元康らのスタッフが作ったが、チームとしてのHKT48は指原が作ったものなのだ。『腐ったら負け HKT48成長記』はそれを再確認させる本だった。

AKBグループは厳しい。かわいい女の子が安穏と楽しい毎日を送っているわけではない。常に人から評価され、順位付けがされる。しかも、自分の力ではどうにもならないことが評価の対象に含まれている。年齢と美貌だ。今はそれが好感されて人気を保っていても、もっと若く、もっと美貌の子がどんどん入ってくる。すると、順位、ポジションは容赦なく変えられていく。これは地獄のようなシステムである。そんな世界で彼女たちは生きているのだから、動揺したり、泣いたりするのは当然だ。指原だって二十歳そこそこの年齢だ。それにもかかわらず、確固たる自分を持ち、超然としながらチームを構築してきた。AKBグループの傑物だとしか言いようがない。

(2015年8月8日)