奥田英朗の『ガール』(講談社文庫)を読む。
三十路の女性が主人公の5本の短編が収録されている。どれも男目線の三十路女像なのだが、なかなかリアルだと感じた。見方によっては女性の老いをテーマにしているとも言える。
自分はもう「ガール」ではないのではと密かに悩む女性や、管理職に抜擢されたばかりに、自分より年上の男子社員と業務上で衝突する女性などが登場する。
エンタメ性も十分だ。一番楽しめたのは、最終話の「ひと回り」だ。35歳の独身女性の部署にイケメンの新入社員が配属される。彼女は年齢が一回りも違うイケメン新人を教育指導する係なのだが、彼女は会った瞬間から彼にのぼせてしまう。一方的な恋の始まりだ。イケメンを落とそうあの手この手で接近してくる社内の女性は指導教官としての権限をフルに利用して自分の手でシャットアウトする。女性が女性を見る目は鋭い。女は女の意図をすぐさま見破るのである。イケメンに女性たちが悉く色めき立つというのは漫画的で、笑ってしまう。もっとも、男だって、とてつもない美人が現れれば心奪われるのだから同じことか。漫画的とは言えないのかもしれない。しかし、彼女はある時、憑き物が落ちたようにイケメンへの異常な情熱を失う。自分の異常な行動を客観的に捉えることができたからだ。
5話ともに男性作家による女性像である。かなりの真実が含まれているように私は感じたのだが、同じことを女性読者が感じるかどうかは不明である。
(2015年9月24日)