吉成真由美 『知の逆転』

吉成真由美のインタビューによる『知の逆転』(NHK出版新書)を読む。

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サイエンスライターである吉成真由美が当代の知性に対して行ったインタービューをまとめたもの。2012年12月初版である。

インタビュー先は以下の6人である。

  • ジャレド・ダイヤモンド
  • ノーム・チョムスキー
  • オリバー・サックス
  • マービン・ミンスキー
  • トム・レイトン
  • ジェームズ・ワトソン

このうち、トム・レイトンのインタビュー内容は彼我の差異を如実に感じさせるもので、まさに衝撃的であった。トム・レイトンはアカマイ・テクノロジーズ社の協同設立者で、MITの数学教授でもあるという。アカマイ・テクノロジーズと言われても私には未知の企業である。ところが、同社は「誰も知らないインターネット上最大の会社」らしい。我々が利用する大手サイトは、この会社のサーバによって迅速に表示されているという。同社のサーバ台数はこのインタビュー時点で9万台もある。それを世界各地に配置し、サイトへの大量アクセスに対処しているのである。それはサーバの台数が確保できるから成り立つ業務ではない。数学理論の導入によって初めて可能になる。数学教授としてのレイトンは、現実社会では殆ど役にも立たないと思われていた数学をインターネットの世界で駆使し、巨大ビジネスに成長させたのである。

アメリカではインターネットに対する研究がかなり本格的に行われているらしい。アメリカ発の技術だからしかたないのかもしれないが、インターネットの根幹はアメリカで作られ、発展させられている。アメリカの優秀な頭脳がインターネットの世界でしのぎを削っているのだ。それに引き替え、我が国はインターネットを利用しているだけである。供給する側には回っていないのだから、インターネットそのものでビジネスはできていないし、アメリカのように最先端の研究が行われているとも思えない。これでは大人と子どもであり、とても勝負にならない。日本はインターネットという現代社会のインフラに対して手も足も出せず、単に使う側に回るお客さんに成り下がっている。

かつては「技術立国」を標榜していた国はどこに行ったのだろうか。・・・なんてことを他人事のように書いているからダメなんだね。

(2015年11月16日)