佐藤多佳子の『第二音楽室』(文春文庫)を読む。
小学生から高校生が主人公の短編集。すべて女子が主人公で、音楽が絡んでいる。ただし、何かの大舞台があって、誰かが華々しい成功を収めるようなサクセスストーリーではない。楽器からして地味である。
「第二音楽室」 主人公:小5女子 楽器:ピアニカ
「デュエット」 主人公中学女子(学年不詳): 楽器:歌
「FOUR」 主人公:中1女子 楽器:ソプラノリコーダー
「裸樹」 主人公:高1女子 楽器:ベースギター
私は佐藤多佳子の作品を生理的に受け付けない。若者の口語をそのまま活字にしたような文章を読んでいると、本を放り出したくなる。この本でも、冒頭の表題作から最終作に向けて若者口語体度はどんどん上がっていく。最終作「裸樹」は今時の女子高生の独白そのもので、最初の1ページで本を閉じたくなった。
ところが、この「裸樹」が最も印象に残る作品だった。
主人公の女子は中学の時に不登校の経験がある。彼女はある日路上で歌う女性の歌に魅了されてギターを始める。それによって何かが変わると信じて。彼女は高校に入ると軽音学部でベースギターを弾き始める。そして、そこで何年も高校を留年している幽霊部員の先輩に出会う。その先輩こそ昔路上で歌を歌っていた当人だった。先輩もまた不登校であり、リストカットや薬の経験者でもあった。彼女との接点ができてから、臆病だった主人公は大きく変わり始めるのである。
主人公には未来が開けているように思えた。作者はあえてこの作品を短編にしたのだと思うが、是非続編を読んでみたい。
私事ではあるが、私の長女は不登校であった。この物語を読むとどうしても長女と主人公を重ねてしまう。私の嫌う文体で書いてある作品であるにもかかわらず、物語は私を捉えて放さなかった。今まで忌避していた作家だが、再度挑戦してみよう。
(2015年10月5日)