池井戸潤 『銀行総務特命』

池井戸潤の『銀行総務特命』(講談社文庫)を読む。

ginko

帝都銀行総務部企画グループには辣腕の特命担当がいる。彼らの仕事は銀行に悪影響を及ぼしかねない内外の不祥事を処理することだ。彼らの手で顧客名簿流出、女子行員のAV出演、取引先との癒着などが次々と解決される。

巨大銀行は万単位の人間を擁するとてつもない組織だ。国の中にある国だ。上下関係が明確で人事は厳しい。そしてお金を扱う組織でもある。これで人間のドラマが生まれないわけはない。「現実は小説よりも奇」であるので、現実の銀行にはもっとすさまじいドラマがあるはずだ。

しかし、銀行が特別なわけではない。私の歳になると、中堅企業でも零細企業でも同じように数々の事件・ドラマが現実に起きることを知っている。仮に10人の企業であろうと、100人の企業であろうと、人間がいる場所にはとんでもないことが起こる。これは現実に起きることなのかと口をあんぐり開けてしまうようなことが起きる。

銀行は絵になる舞台だ。物語の舞台として描くには適しているだろう。だからテレビ番組にもなる。しかし、どのような職場においても暗部はあり、驚愕の事件が起きているのだ。『銀行総務特命』は面白い作品だが、現実はこんな生やさしいものではない。

(2015年8月20日)