星新一の『未来いそっぷ』(新潮文庫)を読む。
これは1971年に発表された作品で、文庫化は1982年。私が手にした文庫本は2007年の発行で、62刷と記載されている。この数字は星新一の作品がいかに読み継がれてきているかを端的に示している。
私が10代の頃星新一は大ブームであった。しかし、その当時の私は星新一のショート・ショートを読みやすく分かりやすいが故に馬鹿にしていた。真価を全く理解していなかったのである。しかし、50歳を過ぎて再び手に取った星新一は私を驚嘆させるに十分であった。彼の作品には無駄がない。それどころではない。未来の人類がどうなるのか、考えさせられる作品が目白押しだ。それを星新一の空想の産物だと斬って捨てるのは簡単だが、先見の明があったのだと今の私は断言できる。例えば、『ボッコちゃん』に収録されている「おーい でてこーい」を読むと、核廃棄物を含むゴミ問題を正確に予想していたことに驚かされる。現代の作家なら、星新一のごく短い物語のアイディアで、長編を書こうとするのではなかろうか。物語は長ければ良いわけではない。
この『未来いそっぷ』も面白い。冒頭の『イソップ物語』のパロディ7編から星新一節が全開だ。シンデレラのその後を描く「シンデレラ王妃の幸福な人生」、未来において女性的なロボットに魅惑されて仕事をし続ける男が登場する「オフィスの妖精」、コンピュータの指示のままカバを「おカバさま」と大事にする人間の顛末を描く「おカバさま」など、魅力的な作品が多数並んでいる。
星新一の作品は漢字に読み仮名さえ振ってあれば小学3年生でも読める。しかし、ひねりのきいた面白さを味わえるのは大人なのかもしれない。50代になって星新一を再発見できた私は幸運だった。
(2015年8月6日)