池井戸潤 『ロスジェネの逆襲』

池井戸潤の『ロスジェネの逆襲』(文春文庫)を読む。

losgene

半沢直樹シリーズの第3弾である。これからも続くのかどうか不明である。

半沢直樹は華々しく活躍しすぎたために銀行本店から証券子会社に出向させられている。今度は証券会社の社員として銀行の証券営業部と徹底抗戦をしている。第3巻にもなると半沢の完全無欠のヒーローぶりが前提で物語が進行する。半沢には影の部分がないので、もはや非人間的な印象さえ受けるのだが、そのように難癖をつけたとしても本作は面白くてたまらない。池井戸潤のプロットは緻密で、企業買収についてもリアルな記述が続く。サラリーマンなら誰もが楽しめる作品だろう。

半沢は銀行の証券子会社にいるのに、銀行本体を敵に回す。そんなことをすれば人事でどのような目に遭わされるか分からないのに、平然として我が道を行く。半沢は、仕事は自分のためにするのではなく、「客のためにする。ひいては世の中のためにする」ものだと言い切る。さらに、「自分のためにした仕事は内向きで、卑屈で、身勝手な都合で醜く歪んでいく」とも。確かに、半沢直樹シリーズには自分のために仕事をしてみじめに敗退していく銀行員が次から次へと出てくる。

池井戸潤のメッセージは明確だ。サラリーマンの殆どは半沢直樹のような完全無欠のヒーローにはなれない。しかし、池井戸潤のメッセージは受け止めても損はしないだろう。

(2015年9月2日)