奥田英朗の『マドンナ』(講談社文庫)を読む。
5つの短編が収録されている。表題作は、『ガール』の「ひと回り」と逆の設定だ。「ひと回り」では年上の女性社員のところに若いイケメン男子が現れるが、「マドンナ」では男性課長のところに若い女性が現れる。男性課長は自分の好みぴったりの部下に心を奪われるのである。本作は大人の小説にありがちな愛欲を描いたものではなく、この課長のならぬ恋がどんな顛末を迎えるのかをコミカルに描く。
この短編集で最も私の興味を引いたのは「ボス」だった。空席になった部長の席に自分が座ると思い込んでいた男は、そこに自分と同じ年の女性が座ることを知り愕然とする。その女性上司は欧米流の仕事ぶりで部門を改革していく。その途上で主人公の男とぶつかる。残念ながら男は女性上司の相手にもならず常に粉砕されるのである。あまりにも強い女性上司は非現実的だと私は思ったのだが、ふと思い直すとそうでもない。これが出世した女性管理職の典型という気がした。女性が男性社会の中で管理職として生きていこうとすれば、強くならざるを得ないだろう。
(2015年9月27日)