マイケル・サンデルの『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業 上・下』

マイケル・サンデルの『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業 上・下』(早川書房)を読む。

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私もかつてNHKで放送された「白熱授業」を見たことがある。サンデルがあまりに颯爽としているので、大学の授業ではなく、舞台劇なのではないかと思った。大教室に溢れる生徒を相手にたった1人で講義をし、議論をし、生徒たちを仕切っていく姿は格好良すぎる。サンデルは哲学界のカラヤンだ。(古いか?)

この本はその講義を収録したものだ。サンデルが颯爽としているのは活字を読んでも伝わってくる。活字になってさらによく分かったのは、ハーバード大学生の優秀さである。カントを議論する部分では、私は活字を読んでさえ理解するのに時間がかかるのに、ハーバード大学生たちは口頭でサンデルと丁々発止のやりとりをしている。全く頭のできが違う。

それはともかく、対話形式で哲学を学ぶのはソクラテス以来の伝統ということになっているので、サンデルの授業はまさに哲学の本来の有り様を示している。しかし、我が国で哲学の授業がこのような形式で行われている例を私は寡聞にして知らない。サンデルに続いた、もしくはサンデル同様に対話型で授業を行っている日本人の教授はいるのだろうか?

なお、上下巻の余白に東京大学でのサンデルの特別授業が収録されている。ハーバードでは正課であるので生徒は事前に参考図書を読み、次回の講義でのトピックはWeb上で議論した上で参加しているようだったが、東大ではたった2回の特別授業だ。それ故、議論の深さや抽象度の高さはハーバードに及んでいない。しかし、日本の戦争責任について議論した内容を読むと、実にしっかりとした考えを堂々と述べている。大変喜ばしいことだ。

(2015年9月7日)