カテゴリー別アーカイブ: フィクション

よしもとばなな 『海のふた』

よしもとばななの『海のふた』(中公文庫)を読む。

umi

死は出てくるが特別な男女関係は出てこない。ある女性がかき氷屋を開く。お金を儲けるためというより好きでやっている。メニューも独特。しかし、彼女はそれでやっていく。彼女と暮らす少女はネット上でぬいぐるみ屋を始める。

自分で仕事を始める時っていうのは、こうして自分がやりたいことを自分の好きなようにやっていかなければ嘘だ。どこかで現実と妥協しなければならないというのが実情としてあるのかもしれないが、せめて物語として読む時にはそう思いたい。よしもと作品の中でこれほど読後感がよかった作品はなかった。

(2015年7月23日)

よしもとばなな 『王国 その4 アナザー・ワールド』

よしもとばななの『王国 その4 アナザー・ワールド』を読む。

oukoku

タイトルだけを見ると、少年少女をわくわくさせるファンタジーっぽい。ファンタジーには違いないのだろうけれども、私には心理カウンセリングの本のように思えてならなかった。

よしもとばななの作品の設定はどれも普通でない。よしもとばななの中ではすべてが普通なのだろうが。『王国』の場合は、主人公の祖母が人を癒やす特殊能力の持ち主。主人公本人もその力を少し持っている。主人公の上司は特殊能力を持った占い師で、ゲイ。占い師には彼氏がいる。こうした設定が標準だ。

『王国 その4』が完結編なのだろうが、今度はその3までの主人公の娘さんが出てきて、主人公に成り代わっている。彼女は同性愛者で、やはり同性愛者の彼氏を見つける。こういう設定の中での緩やかな生活風景を描くのがよしもとばなななの魅力なのだろう。

しかも、吉本(よしもと)作品では登場人物の死がよく起きる。不思議な男女関係や死がセットになっている。それが人生の中核だということなのだろうか。実に不思議な読書体験である。

(2015年7月21日)