吉本ばなな 『キッチン』

吉本ばななの『キッチン』を読む。

kitchen

1987年作品。これがデビュー作らしい。この作品から既に登場人物の死と不思議な男女関係が描かれている。吉本作品は、『キッチン』の延長なのだろう。数ある作品の中では読後感がかなり良い方だった。

吉本ばななは時々はっとするようなことを書く。「キッチン2」には、お気楽に料理教室に通ってくる女性たちについて、「彼女たちは幸せを生きている」と書き、さらに「幸福とは、自分が実はひとりだということを、なるべく感じなくていい人生だ。」と言い切る(新潮文庫 p82)。作家というのはこういうことをさらりと書いてのける人たちなのだ。

『キッチン』にはもうひとつ、「ムーンライト・シャドウ」という短編が掲載されている。これも特殊な人間関係が出てくる。主人公さつきの彼氏には高校に通う弟(柊 ひいらぎ)がいる。その弟には彼女がいた。さつきの彼氏は、自分の弟の彼女を車に乗せて送っている途中交通事故で死ぬ。もしかしたら残された物同士が恋仲になるのかと思わせる展開だったが、物語では2人がどうなるのかは明かされなかった。

「ムーンライト・シャドウ」で印象的だったのは、高校生の彼女と死別した男の子(柊)が、彼女が着ていたセーラー服で登校し、町を闊歩していることだった。そんなことを本当に実行できる男子高校生がいるのか疑問だが、私には到底思いつかない設定だ。さすが作家はすごい。なお、彼女の死を悼むこの男子高校生の行為は、馬鹿にされるどころか、学校の女子に同情・評価され、彼はもててもててたまらないのだとか。なるほどね。

(2015年7月23日)